「この春からの研修なんですね」


「うぇっ?あ、はい」


「じゃあ、色んな経験はこれからね。ついてきて」



桐生さんはそう言うと、ゆっくりと歩き出した。


慌ててそれについていく俺。




「あの、桐生……さん」


「何?」













“神崎!医師か先輩って呼べって
 何回言ったらわかるんだ”






“無理。だって俺、尊敬してない人、
 そんなふうに呼べませんもん”













この人は俺が
“医師”や“先輩”って呼ばなくても


怒ることなく、
俺の目をじっと見つめて笑った。




なんだろう。


この人……。


調子狂うな。




「や、何でもない……っす」


「そう。……ねぇ、神崎医師は
 私で指導医何人目なの?」



「え?あー……んと、5人目?
 や、7人目だったかな?あれ?」




マジでわかんねぇ。


一人目は2週間で交替になって、
2人目は3日で交替。


3人目は1日で交替なって、
4人目は確かその日のうちに交替して……。



マジで何人目だ?


「あはは。1ヶ月しかたってないのに
 そんなに代わったの?
 
 私は何日くらい指導出来るのかしら」



桐生さんはおかしそうにそう言った。





こいつ、絶対馬鹿にしてる……。



女のくせに。


俺のことなんだと思ってるんだよ。



膨れっ面で桐生さんを見ると、
彼女は柔らかく笑った。




「医師。こっちです」


反対側にふらふらと歩こうとしていた俺を
促すようにして、桐生さんは階段を降りた。