―僕も、お医者さんになりたい!




―そうね。父さんのような立派な医者になって、母さんを元気にしてちょうだい。




―うん。ママのびょーきは、僕が治すよ。




ああ。あれは、母さんの声。





―こんなんじゃあ、医者になどなれんぞ。




―でも、……っ父さん!!




―たとえ医者になれたとしても、私は認めん。




―なんで。なんでだよ






ああ。あれは、父さんの……。












「……い、……せんせい。神崎先生?」


「うわっ!!」


勢いよく体を起こすと、
全身に汗をかいていることに気付いた。


まだ真夏でもないっていうのに、
俺のTシャツはびしょびしょで、


まだ整わない息をしてぼーっと壁を眺めていると、
ふといい匂いが鼻を掠めた。


「桐生さん……?」


「大丈夫ですか?神崎先生。
 随分魘されていたみたいですけれど……」


「ああ、大丈夫だと思います。はい」


「朝食が出来たから起こしたんですけど、
 先に着替えたほうが良いですね。


 医者が風邪を引いたら元も子もないですからね」


次第に呼吸を落ち着かせた俺を見て、
桐生さんはにっこりと笑った。


「ご飯、ありがとうございます。
 先に食べてていいっすよ。
 俺ちょっとシャワー……」


少し震える足を踏ん張らせて立ち上がり、
浴室へと移動した。