*
―僕も、お医者さんになりたい!
―そうね。父さんのような立派な医者になって、母さんを元気にしてちょうだい。
―うん。ママのびょーきは、僕が治すよ。
ああ。あれは、母さんの声。
―こんなんじゃあ、医者になどなれんぞ。
―でも、……っ父さん!!
―たとえ医者になれたとしても、私は認めん。
―なんで。なんでだよ
ああ。あれは、父さんの……。
*
「……い、……せんせい。神崎先生?」
「うわっ!!」
勢いよく体を起こすと、
全身に汗をかいていることに気付いた。
まだ真夏でもないっていうのに、
俺のTシャツはびしょびしょで、
まだ整わない息をしてぼーっと壁を眺めていると、
ふといい匂いが鼻を掠めた。
「桐生さん……?」
「大丈夫ですか?神崎先生。
随分魘されていたみたいですけれど……」
「ああ、大丈夫だと思います。はい」
「朝食が出来たから起こしたんですけど、
先に着替えたほうが良いですね。
医者が風邪を引いたら元も子もないですからね」
次第に呼吸を落ち着かせた俺を見て、
桐生さんはにっこりと笑った。
「ご飯、ありがとうございます。
先に食べてていいっすよ。
俺ちょっとシャワー……」
少し震える足を踏ん張らせて立ち上がり、
浴室へと移動した。