うーん、仕方ない。塗るか。
薄~く。
…あ、そんなことできない。
やっぱり濃いなあ……
唇を尖らしたり、すぼめたりして。
私は、しばらく紅い口紅と格闘した。
そのままだとマットな感じだから、
仕上げにマスカットフレーバーのグロスを重ねると、艶やかな、さくらんぼみたいな唇が出来上がった。
…これいいかも?…っていうかバッチリじゃない?
気分上がるぅ~
よしOK!
「遅かったね。大丈夫?
体調悪いとか?」
席に戻ると、隆太が心配そうに私の顔を見上げた。
「ううん。なんでもないよ。ちょっと混んでて、並んでたの」
「あれ?口紅変えた?」
するどい隆太の指摘に私はどきりとして、手のひらで口元を覆った。
「あ、やっぱりNGかな?
もらい物なんだけど、今時こんな色ナイよね?」
「え?似合うよ。なんかいつもと違うけど、すげえセクシーだよ。
誘われてる感じ」
セクシーなんて、男の人に言われたのは初めてだ。
「本当?」
「うん」
隆太の言葉に私はすっかり舞い上がり、まだ残っていたビールをグイッと飲み干した……口紅の跡がつかないように、紙コップを数ミリ唇から浮かせる、という器用な飲み方で。

