―「はぁぁ………」
昼休み、私は一人屋上にいた。
立ち入り禁止だが、屋上には誰も来ないので、昼食をとる場所として利用している。

(私…ただでさえ、人と話すのが苦手なのに…)
転校生が私の隣に座ってから、ずっと気まずい。
授業中、「教科書を見せて」と寄ってきた時は、心の中で叫んでしまった。

(転校生…ちょっと怖いし…)
あの威圧的なオーラは、隣にいるだけでも、怖く…冷や汗が出てしまいそう。
(もう話しかけて欲しくない…)
パクリとお弁当のミニトマトを、口の中に運んだ。

自分で作ったお弁当の味に少し飽きながらも、パクパクと何も考えないで食べる。
ドアがある壁に寄りかかり、上を何となく見上げると…

「ビビリ、楽しいか?」
「ぅきゃああ!?」

転校生がいて…私を見下ろしていた。私は驚いて思わず叫んでしまった。
「一人でパクパクと…友達とは食べないのか?」
転校生は、屋上のドア付近にあるハシゴを使わず、上から跳んで降りてきた。

「き、気にしないでください…」
「気にする」
トン…と壁に手を置いて、私をじっと見下ろす。
しゃがんでいた私は、身動きも出来ず…ただじっと転校生を見るしか出来なかった。

(ど、ど…どうしよう)
カァ…と体が熱くなって、心臓が激しく動く。
転校生は、ボソッ…と何かを呟いた。
「え…?あ、あの?」
「別に、何でもない。」
「そ、そうですか…では先に、教室に戻りますね」

転校生から逃げるように、その場を去った。
「…今夜、お前は死ぬ…と言ったんだ。麻衣」


―放課後になり、教室には私だけ残っていた。窓から夕日の光が差し込み…教室が、オレンジ色に染まる。

「…教科書どこだろ…」
国語の教科書が、どこかに消えてしまい…私は、机の中や床を探していた。
(ああ…もう17時…)
時計の針は、5を指していた。学校には、まだ部活動をしている人が残っている。
校庭から、元気な声が聞こえ…賑やかに騒いでいた。

(あと少し探して、見つからなかったら帰ろう…)
溜め息を吐いて、しゃがんでいた体を起こし…立ち上がる。

「探し物は、教科書?」
「っ…!?」
また、いきなり声がして…教室のドアに目を向けた。そこにいたのは、転校生だった。
しかも、手には教科書が…。
「俺が間違えて、国語の時、机に入れてしまった。悪かったな、返す。」
「あ…大丈夫、ありがとう…」

ドアまで駆け寄り、転校生から教科書を受け取る。
「せっかくだし、一緒に帰らないか?」
「え…?」


―断る勇気もない私は、転校生と一緒に帰る事になった。
(私って…ほんと…)
「おい、ビビリ」
「あ、はい……あ、あの。ビビリって何ですか?」
「そのまんま。臆病者のあんたに似合うだろう?」
「でも、出来れば…」

オドオドと迷いながら、勇気を出そうとすると…
「麻衣」
不意に名前を呼ばれた。
ドキン…と心臓が跳ねて、呼吸をするのも忘れてしまいそう。

転校生は、真剣な顔で私を見据える。誰もいない通学路に私達2人だけ。
まるで、2人きりの世界になったみたい。とても静かだった。

「あ…あの…」
私は、何故か怖かった。
あまりにも周りが静かすぎて。
「麻衣…」
転校生は、ニヤ…と不敵な笑みを浮かべながら、私の名を呼ぶ。
スッ…と転校生が手を伸ばし、私の肩を触れようとする。

私は思わず、手を振り払い…後ろに下がった。
「ご、ごめんなさい。も、もう一人で帰ります!」
ダッ!!と一気に走った。
転校生から、遠く遠く離れたくて。
(怖い…怖い…!)

私は家まで、ずっと走り続けた。


―夜…夕食を済ませて、お風呂に入り…自分の部屋に戻る。
フカフカのベッドに横になり、私は考えていた。
(今日は…なんか疲れたな…)
転校生、佐藤深夜。彼と関わるのは少し気まずい。
(さっきの…忘れよう)

そう思い、私は眠りについた。

―深い眠りにつく直前、突然、物音がして、私はハッと目を覚ます。
すると私の首に、何かが当たる。
「…何…」
「あ、バレた」
もう何度目か、聞き慣れた声がして…私は目を見張る。

月の光に照らされて…私を見下ろす転校生の姿が見えた。
「さ…佐藤くん……?」
首に当てていたのは、大きい鎌。佐藤くんは黒い衣装を身に纏い、顔を隠していた。
その姿は、まるで…。

「…悪いな、ビビリ。これが、お前の運命なんだ」
鎌を振り上げて、私を獲物のように狙う。
「死神……?」


―ザシュ……!!