―私、吉田麻衣(16)の毎日は、同じ事の繰り返し。朝起きて、学校に行って、家に帰って、寝る事の毎日。
何も面白くない。クラスの友達とも、あまり仲良くなくて。私は孤独だった。

でも誰かのせいでもない。自分から動こうとしない私のせいなのだから―…


―今日もいつもの通学路を通る。その道には、学校に行く人達で賑やか。だから私は、遠回りして人気のない道を歩く。

(朝から、人に会いたくない…)
人前で話すのが苦手で、行事も目指さない場所にいたり…休んだり…と避けていた。
(私、もう高校生なのに…こんな毎日でいいのかな…)
そう思う事もあるが、今さら努力しても遅いような気がする。

寒かった日々は、だんだん暖かくなって…もう春の季節に近付こうとしていた。つまり、春になれば私は高校2年生だ。
(…高校生活、楽しく過ごせないで終わっちゃうのかな…)

…でも、もういい。
私は、どうせ―…

―「どうせ…何も出来ない?」
突然、男の人の声が聞こえ…私は顔を上げた。いつの間にか、私の前には制服を着た青年がいた。
(私の学校の制服…?誰だろう)
私は無視して、青年の横を通る。

「…誰だろうって、あんたの学校に通う事になった、ただの転校生だ。」
私の心に思った事を青年は、読めるかのように答えた。

(…ただの転校生にしては…)
チラッと青年を見る。
カラスように真っ黒な髪に、スラッとした高い背…。漫画に出てくる主人公のような、容姿端麗な青年だった。
「おい、ジロジロ見て…何か変なものでも?」
「…あ…すみません!」
「変じゃないなら、いい。それより、学校まで一緒に連れてきてくれないか?」

青年は、スクールバックを肩にかけて、私の隣に近付いてきた。
「え……えぇ…?」
「おい、モタモタしないで行くぞ。遅刻するだろ」
「…は、はいっ」

低い声と私を睨む顔。
せっかく、容姿端麗なのに勿体無い気がする…。
(こ、怖いよ…)
「…なんだと?」
「えぇ?!ななな、何も言ってないですよ…?」
「あ…いや、何でもない」
「………」
何なんだろう、この人は。
さっきから、私が思っている事を…普通に答えてるような気がする。
(き、気のせい…?)


―ようやく学校に着き…青年を職員室まで連れてきた。
(はあぁ…怖かった…)
結局、話す話題も勇気も出せず…あの後、ずっと無言だった。
(名前も聞けなかったな…。でもいいか…どうせ、もう話す事は無いだろうし)


―と安心したのも束の間…。
「今日から、クラスの一人となる転校生が来た。名前を」
「…俺の名前は、佐藤深夜。えーと…宜しく。」
(えぇぇ!?同級生!?)
大人に見えたから、2年か3年の転校生だと思っていた。

「佐藤は…窓側に空いてる、後ろの席に座ってくれ。」
「はい。」
ツカ…ツカ…。
周りの女子達は、嬉しそうにヒソヒソ話しながら、転校生を見つめていた。

私は、というと…鼓動を速めながら、じっと座っていた。
転校生が座った席は…。
「…残念、また会えたな。ビビリ」
私の隣だった…。


―佐藤深夜という転校生に…
私は会いたくなかった。
だけど…これから、もっと最悪な事になるとは…私はその時、気付いていなかった。