この塾での生活にも、大分慣れてきた。初めて、テストで1位をとることも出来た。
気付けば、ここに来てから一ヶ月が経とうとしていた。
そんなある日。

「美織、この塾に先生の異動があるって、知ってる?」

突然、紫乃がそんなことを聞いてきた。
異動ということの意味さえ知らない私は、興味深げに紫乃に聞いた。

「ううん、知らない。異動って、何?」

「異動っていうのはね…、先生の働く教室が変わることだよ。
今年は、平本先生が異動になるみたい。」

私は、少し残念だった。平本先生の授業が面白かったおかげで、私は塾にはやくなじむことが出来たのだ。

寂しそうになる私の顔を見た紫乃は、あわてて

「でも、先生がいなくなるってことは、新しい先生がくるってことだから!楽しみにしときなよ、ね!」

だからそんなに、寂しそうな顔しないでよ…と紫乃がフォローしながらも悲しげに笑った。

私の心は、先生の異動が寂しいということよりも、紫乃に悲しげな顔をさせてしまったことに痛んだ。

「あ…ごめん、紫乃。
異動だったら仕方ないし、新しい先生楽しみにしなきゃね!」

私が必死にフォローするのをみて、紫乃はなぜかプッと噴き出した。

「紫乃…?」

「美織、必死すぎ。こんだけのことでそんなあわてなくても…」

なおも笑っている紫乃につられて、私もつられて笑い出してしまった。

この時は知らなかったのだ。
この異動が後に私にとって大きな出会いを生むことに…。