不意にかけられた声に驚き、顔を上げると……………
そこには探していた張本人が立っていた。
心臓はバクバクと音を立て、彼に聞こえていないか不安になるほどだった。
「ぇっと……
じ、ぶんの席、どこか分かんなくなったから…」
ダメだ。
動揺が隠しきれてない。
「ハハハ、自分の席忘れるなんてあるんだ。」
彼が笑った。
私がこの教室で普通に男子と会話して笑いあうなんて…。
この人は私に気を使って声をかけてくれたのだろうか。
昨日のことなどなかったかのような振る舞いは、私が傷つかないように、配慮してくれているから……?
頭の中で、いろんな憶測が飛び交う中、
彼は普通に会話を続けた。
「そういえば名前知らないよね、お互い。」
「う、うん……。」
「小野優大(オノ ユウダイ)と申します。」
ふざけた感じでかしこまった自己紹介をしたので、私もそれに便乗する。
「あっ、っと日向愛子と申しすます…。」
しまった……。
完全に噛んでる……。
「プッ………噛んだ?(笑)」
「かっっ!!噛んでない!!」
急に恥ずかしくなり、つい見栄好いた嘘をつく。
「いやいや噛んでたよ?
『申すます』って(笑)」
「っ!!!!」
抵抗する言葉が出てこない。
「ごめんごめん、もう言わない(笑)
てか何て呼べばいい?」
「何でも…。」
「ん〜…じゃあ日向で。」
どこか名前呼びを期待していた私は少し落胆。
まぁ普通に考えれば名字呼びが当たり前か…。
「俺も小野でいいから。」
「小野くん?」
「小野『くん』ってなんか距離感じるなぁ〜。他人っぽい。」
「じゃあ小野?」
「いいね〜!!」
親指を立てられた私は何だかフレンドリーさを感じ思わずハニカム。
そして、「距離を感じるから」と言われたことにまだ少しドキドキしていた。
もちろんその言葉に深い意味なんてないことはわかってる。
けど何気ない一言が私の心には大きく響いてしまう。
