教室に入るとやはりまだ誰もいない。
私はいつもわざとこの時間を選ぶ。
誰かがいると、そこにはすでにその人の空間が出来上がっていて、そこへよそ者がおじゃまするような感覚になる。
この感覚が苦手だった。
私は自分の席に着く前に、さりげなく教卓に置いてある名簿で彼の名前を探そうとした。
名簿を上から指でなぞっていく。
「………………っ、」
重大なことに気づいた。
私は彼の名前を知らない。
そう、知らないから探しようもないんだ。
このクラスの人の名前を熟知しているならまだしも、私が名前を言えるのはクラスの4分1にも満たなかった。
私、
何してるんだろう。
自嘲気味になりながら名簿をなぞる手をとめる。
「何してんの?」
