龍が帰ったことで、教室には私と彼だけになった。
「「………………」」
お互い沈黙が続く。
「…大丈夫?」
沈黙を破ったのは彼だった。
「う、うん。
そっちこそ大丈夫ですか?」
「俺は……ゲホン、全然平気、ゲホゲホッ」
「ずっとむせてるじゃん…。」
「ハハハ。これは風邪だから。」
「「………………………」」
また沈黙。
でも今度は私が破る。
「なんで…」
「何が?」
「何でこ……」
『何でここにいるの』
私はこう聞きたかったが口をつぐんだ。
だってもしも向こうが私のこと覚えてなかったり、
万が一、
人違いだったりしたら………
「え?何?」
「あっ、えっ…と……
何組??」
「俺2組。」
「…………っ!!」」
2組って、
私と同じクラスじゃん。
「うそ…」
嘘だ……。
夢みたいだ………。
あの時、助けてくれた人と同じ学校の同じクラスだなんて…。
でもこの人は本当にあの時の、傘をくれた本人なのだろうか。
いくら考えても答えはでないまま、
気づいたら私は泣いていた。
「グスン……グスン……」
すると、彼が近づいてきた。
ドキドキしている私の前に、彼がしゃがみこむと、私の身体は反射的に後ろへ逃げてしまった。
すると、
少し悲しげな顔をした彼に、
私はしまったと思い、弁解しようとしたけど、上手く言葉にできない。
「怖かったよな…。」
下を向いたまま、そう私に言った彼の声は、心なしか、少し震えていた。
そして、
右手を握ってくれた。
あの時と同じように。
その手はとても温かくて、安心感があって、一気に何かが溶けていく気がした。
涙が止まらなくなる。
甦るのは全部あの雨の日の記憶。
やっぱりこの人だ………。
