「知るか。俺は正直なんだ。それが俺の礼儀なんだよ、文句あるか?」
威厳のある口調で矢崎さんが耳元でそう呟く。
えぇ、大有りです。文句しかありません。
礼儀は礼儀。俺の礼儀も何も、世界共通の礼儀ってものを知っておかなくてどうする。
それからも愛先生のホームルームは続いた。
これからの事とか皆の自己紹介とか。まぁ色々と。
「……あら、長くなっちゃったね、それでは皆さん、明日から早速頑張って行きましょうね!…起立。礼。……気をつけて帰ってね〜」
ホームルームが終わった時、時刻は12時過ぎぐらいだった。
良かった。やっと帰れる。
「………………」
私はため息をつきながら席を立ち、早いとこ帰ろうと鞄を肩に掛けた。
「おっと!小澤ちゃん、帰さへんで♪」
教室から出ようとしたその時、すかさず咲田さんが私の前に通せんぼした。
「…何ですか咲田さん……どいてください。」
「あ、なぁ小澤ちゃん、アタシの事下の名で呼んでええよ。アタシも小澤ちゃんの事、彩恵ちゃんって呼びたいんやけど…」
「……そうですか…私は構いませんよ、え…詠美…さん。」
うわぁ、同級生の事名前で呼んだ事あんまり無かったな…
そのせいでなんだかぎこちなく…。
って…いや、今はその話じゃないぞ!
「…で、何でしょうか?さっきも言いましたが…どいてください。」
「あのなぁ、今から皆で遊び行かへん?」
今から?皆で?遊びに?
よく見れば、咲田さ……詠美さんの後ろの方で矢崎さんと山里君がお喋りしてる。
あの2人を含めての「皆」か…。何故そこに私まで。謎です。疑問発生です。
「私は行きません。帰ります。帰りたいです。」
躊躇なく私は言い放った。真顔で。
「…そんな寂しい事言わんといて〜…入学祝も兼ねて行こう?な?」
詠美さんは必死に私の手を握って連れて行こうとしている。
断ったんだから構わず3人で行ってくれていいのに。本当にどうしてこんなに誘うの。私、本気で帰りたいんですけど。
「何やってんだよ。行くなら早く行こうぜ。」
山里君とお喋りしていた矢崎さんが、焦ったそうに私と詠美さんの間に入ってきた。
「彩恵ちゃんが行かへん言うねん!どう思う?」
「どうって…俺に聞いてどうするわけ?」
「え、小澤、行かないの?」
山里君まで割り込んできた。
「行きませんと言ったら行きません。どうぞ、3人で楽しんで。」
笑顔を作って帰ろうとすると、詠美さんはが今度は腰に巻きついてきた。
「嫌や〜!彩恵ちゃん来な、女子アタシ1人やし。それに彩恵ちゃんと遊びたい〜!」
うっ!苦しい。こんなに腰に抱きつかれたのも初めてです…。
「そ…そんな子供みたいに……」
困るな…行った方がいいのかな。でもなー。
「山里君も矢崎も彩恵ちゃんと遊びたがってるって!」
「…そうですか?」
「あぁ、俺は遊びたいな。小澤、無口のイメージあって、あんまり遊びに行くようなタイプじゃないのかな…って昔から思ってたけど…実際遊びに行くとどんななのか気になるし」
山里君は楽しそうに、さらっと言った。
どんなもなにも、このままですよ。
…しかし、こんなに誘ってもらうのもよくよく考えたら初めてだし…。嬉しいこと、なんだよね?きっと。
「ほらな?モチロン矢崎もそう思っとるよな?」
「は?俺は赤メガネがどうしよーと、どーでもいいし。」
「…あっそうですか。」
イラつく事をわざわざ言う人ですね。私この人本当に大嫌いですわ。呼び方も赤メガネに戻ってるし。
この人がこんな事言ってる訳だし…やっぱり行かないでおこうかな。
でも、詠美さんに申し訳ないかも…。
それに、私が行かないで矢崎さんが。清々した。みたいな顔したらもっと嫌だし。
「…いいですよ。行きます。」
私は眼鏡を押し上げながらゆっくりと言った。
「お、やったね」
山里君は、少し珍しそうにしたが、すぐ笑顔に変わって言った。
「嬉しいわぁ!ほな、早よ行こう!」
詠美さんは満面の笑みで私の腕を自分の腕に絡ませ。引っ張るようにして走って行く。
ちょっと、転びそうで怖い…そんなに嬉しいことなのかな?
…なんだか妹ができたみたい。
私は少しだけ詠美さんが可愛く思え、笑みが零れる。
…あ、矢崎さん。私が行くからまた何か文句でも言いそう…。
詠美さんに引っ張られながら、後ろから追いかけてくる山里君と矢崎さんをチラッと見る。
「…(……あれ?)」
見ると、矢崎さんは以外にも笑顔だった。無邪気な笑み。
私…矢崎さんの笑ってるとこ初めてみたかも。ずっとふてくされて意地っ張りな顔しかしなかったから……。
なんだかよくわからない気持ちになってくる。複雑な気持ち。これはなんだろう。
でも、高校に入って、こんなにもすぐ笑顔に囲まれるなんて。全然思ってなかった。私の事だから何も喋らず過ごすだろうと思っていたし。
なれない事ばかりだったけど。私は高校デビューうまくいけたのかな?うまくいかせるようにと思ってもいなかったけど。
強く引っ張られて転びそうになりながらも、私は自然と笑顔になっていました。
