女子はめんどくさい。 女子は怖い。女子とは理解不能な生き物。
だと思う。

(…けど、何を隠そう私も女子だ。)
ベッドにゴロンと寝返りをしながら、本を閉じてふぅと息を吐く。

小澤 彩恵(おざわ さえ)。これが私の名前。歳は16、明日は月曜で、一生に1度の私立の高校の入学式。やっと私も高校デビューだ。

でも、それで落ち着かなくてゴロゴロしてるわけではない。何故か?ハッキリ言って私は明日の入学式をさほど楽しみにしてないから。

言わせてもらえば、ただ通う学校が変わるだけ。そう、小学から中学に上がる時みたいな。まぁ、高校には自分の小学校からの知り合いがほとんどいなくなる。確かにそこは今までと違うね。
だけど私にはどーでもいいんだよね、一緒に勉強をする人達が変わるとか。

だって、私は今までずっと1人でいたから。友達とか作らなかったから。あ、友達か…作らなかったわけじゃないな、一応普通に友達は居た。
しかし、だからっていつも友達同士でくっついて団体組んでたんじゃない。それが私の言ってる「1人でいた」って意味。
私は何をするにも1人で居た。
大人数での行動が元々苦手だったのもあるけど…1番の理由はバカバカしいと思ったから。
バカバカしいでしょ、何もかも友達と合わせたり、いちいち相談したり。
少しは自分の考えを持て。と私は不思議でしょうがないわけ。

まぁ、私が不思議に思うのはこれだけじゃないんだけど...

私はあまり人と交流はしてなかったけど。別に1人だけ浮いてる存在でもなかったわけで。それなりにいつもクラスに馴染んでた。
それで私にはアダ名があった。小学校からの私のアダ名。愛称。
それは「不思議ちゃん」。何故にこのアダ名なのか聞いて見たところ。

私はなんでも疑問に思ってしまう不思議脳で。おまけにあまり口の聞かない私はクラスのみんなにとって不思議なオーラを纏ってた。らしい。

ということで私のアダ名は。
「疑問ばかりを抱いている私の性格=不思議」×「クラスからの私の印象=不思議」
「不思議」×「不思議」=「不思議がいっぱいの不思議ちゃん」

ってな感じの意味不明な計算から私のアダ名は誕生した。

でも実際、私はこのアダ名を気に入ってる。昔からそう呼ばれてきたし、自分でも自身に合ってると思うから。不思議ちゃん。うん、悪くない。

.......とにかく私は何にでも疑問や反論を抱く。そして今考えてたのは女子の事。なぜこんな話になってたのかって?それは本を読んでたから。複雑な恋愛話のね。
そこから疑問が広がってきてこの話になっちゃったってわけです。
…世の女子達。我ながら女子は苦手である。自分自身が苦手というわけではないが、特に、よくありがちの女王タイプの奴。基、リーダータイプの女子。
あれはどんな人でも苦手であろう事は明白である。
そして猫被りのぶりっ子タイプ。こちらも同様、同性からは白く見られがちであろう。その他、非常に大人しくもはや空気状態の女子。人気で権力のある人にまとわりつき自身を守る取り巻き女子。表向きはとても誠実だが裏では人をパシらす腹黒女子。....とまぁこんな感じ。

男子にはそんな人いるであろうか?私の知る限り、男子には2種類の性格しか分類されない。まず、本ばっかり読んだりしてる真面目タイプ。あとは、大帝が運動部所属でハッチャけているスポーツマンタイプ。
...ヤンキーとか手に負えない分類の人たちもいるが...男子は女子に比べると比較的分かりやすく素直である。

そういうところが私の不思議のツボなのです。

「....................(疑問が出来たら考え込むタイプなんだよね..)」

手にしてた本を近くに置き。、また寝返りをうって枕を抱きしめる。その時。

「彩恵?...アンタ何してんの?こんな時間にゴロゴロして...」
姉の美夏(みか)が私の部屋のドアを開けて入ってきた。

こんな時間?..あ、いつの間にか夕方の6時を回ってる。私はどのぐらい考えてたんだろう。

「姉さん、帰ってたんだ。おかえりなさい」

「うん、ただいま。で、何してたの、悩みとかあるの?」

「悩みというか...いつもの考え事。」

「あぁ〜...なるほど...どうでもいいけど、あんまりゴロゴロしないでよ、明日までだらけちゃうよ。」

あはは、と美夏姉さんは笑いながら出て行った。

私は言われた通りにベッドから起き上がって、乱れていた髪を軽く撫でつけた。私の髪は黒いストレートで、長さも量も結構あるからすぐにぐじゃぐじゃになる。

姉と私は結構歳が離れている。私は16でこれから高校生になるというのに、姉は22歳で、仕事をしている。
職業は小学校の教師。今は4年生の担任なんだって。
教師もやるぐらいで姉は頭がいい。四六時中ハテナが頭を回ってる不思議ちゃんの私とは真逆で、とてもしっかりしている。

おまけに彼氏もいて友達も多い。家にもたまに遊びにくる。友達といても彼氏といても姉はいつも楽しそう。私にはこれまた理解不能。本当に何もかも私とは違うんだなぁ、と思う。

私はベッドの横に置いてあった赤い眼鏡をかけ(私は目が悪いのです)部屋を出てリビングに行った。そしたらもうすでに着替えた姉がキッチンに立っていた。

「...あ、彩恵、もう少しでご飯できるからね。それまで洗濯物畳んででくれない?」

「了解。」
私はカゴに入っている洗濯物を丁寧に畳んで行った。

何故私と姉が家事をするのか。簡単。親がいないから。
元々両親は離婚してて、母と姉と私の3人家族だった。らしい。私はその時はまだ生まれて間もなかった。元々、父の顔を知らない。
そして私が6歳ぐらいの時に母は出て行った。姉は再婚相手と逃げたと言っていた。母は1人で子供を育てるのに愛想を尽かしたのだそうだ。何も自分の子を置いていくこと無いのに。だから、私は母の顔も良く分からない。

それからは祖母と暮らしていた。母側の。祖母はとても優しかった、母が居なくなってから、6歳の私と当時12歳だった姉の世話をしてくれた。祖父は早くに病で亡くなっていた。
だから祖母と私と姉、3人で暮らしていたんだ。

そして姉が成人したと同時に私と姉は引っ越した。今のアパートに。姉もその時から仕事をしていたし、私も中学生だったから。2人で暮らせるようになっていた。それに、祖母にも今までの分ゆっくりと平和に過ごして欲しかった。自分自身の娘によっておいていかれた孫を、ここまで育ててくれた。私にとっての母は祖母であった。今でも連絡したり一緒に出かけたりする。

それにしても母はとても最低。だと姉は言う。私は母との時間が浅いせいか、特に何も思わなかった。

自分で産んだ子を置いて逃げるようなら最初に父さんと離婚してて正解だった。父さんの離婚して家を出て行くという判断は正しかった。父さんもそのおかげで今も元気だといいのに。悪いのはあの女だ。と、そういう具合に姉は父を庇うほど母が嫌いのようだ。無理もない。最愛でたった1人の母に見捨てられたんだから。私もそう思うとなんだか悲しい。
今はもう全然気にならないけど。父も母も連絡すら取れないし、 初戦私には両親なんていなかったようなもの。

でも不思議には思う。母がどうして私達を置いて行ったのか。それに、私は両親がどうして離婚したのかも分からない。あえて知ろうとはしなかったものの、本当に疑問だ。

「よし、できたよ!洗濯は後からでいいから、早く食べよう。」

洗濯物を畳みながら半分上の空だった私は、ハッとして頷きテーブルについた。

姉の料理はいつも美味しそう。目の前で湯気を立たせている品々に思わず涎が垂れそうになる。

「いただきます。」
私が手を合わせると。
「どうぞ」と姉が箸を渡してくれる。それを受け取ってからおかずを口に運ぶ。

「..おいしい!」

「ホント?良かった。いつもと違う調味料使ったんだけど...」

確かに。いつもと少し味が違う。

「とっても美味しいよ。」

私が笑顔でそういうと、姉も嬉しそうに笑った。

「あんたも明日から高校生かぁ...」
向かいでご飯を頬張っていた姉がふと呟いた。

「ねぇ彩恵、高校ではもっと弾けなさいよ?中学よりも断然楽しいんだから」

「そういうと?」

「アンタってば、あんまり友達とかと遊ばないでしょ?」

「だって、そこまでの友人はいないし。私自体遊びたくないから。」

「..もう!そこがいけないのよ!少しは人との交流もしなさい。いつまでも不思議ちゃんでいたら彼氏もできないよ」

「彼氏。作る予定もありません。..それに私は、不思議ちゃんの私が気に入ってるから。」

「....全く..まぁ彩恵らしいは彩恵らしいか。」姉は諦めたように頬杖を付き笑った。

私は姉と談笑しながら黙々と夕飯を食べて行った。