「ごめん、遅くなって」

待ち合わせ時刻に少し遅れて到着した先輩が、感傷に浸っていた私を現実に引き戻した。

「いえ、気にしないでください、さっき来たところなんで。髪の毛、感じ変わりましたね」

高校時代黒かった髪は茶色になってしまっていた。

「そうそう、大学生だし、ちょっと派手にしてみたんだ」

けれど、目を細めて優しく笑う顔はあの頃から何も変わっていなかった。

人も多いし、ゆっくり話したいから公園にでも行こう。という先輩の提案に頷いて私たちは歩き出した。
人ごみの中を歩いても手は繋がれることもなく、先輩は歩幅を私に合わせようとさえしない。

どれだけ必死に追い付こうとしても、追い付くことなどできずどんどんひらいていく距離は、まるで私たちの関係そのものを表しているようで。

このまま私とはぐれても先輩は気づかないし、気にしないだろうと思った瞬間に先輩は振り向いて私の様子をうかがう。ずるい。

近づけようとはしないくせに、離れることを許してはくれない。

先ほどまでのざわめきが嘘のような静かな空間にたどり着いた私たちは小さなベンチに腰かけた。一年の空白を埋めたくて私が投げかけるどんなありきたりでくだらない質問にも先輩は楽しそうに答えてくれる。

それはうれしくもあり、けれど先輩が語る楽しそうな生活は私が先輩に追い付けないことを思い知らせた。

公園についた時には茜色だった空はいつの間にか暗闇に変わっていた。