「今こっちに帰ってるんだけど明日暇?会えない?」

そう言われると断ることなどできるわけがなかった。
たとえ課題の提出期限が差し迫っていようとも、期末試験がもうすぐであっても、そんなことは好きな人からの誘いを断る理由になんてならない。
たった一文のメール、無機質な文字の羅列がこんなにも私の心を揺さぶるのは間違いなく差出人が彼、悠也先輩だから。

「お久しぶりです。大丈夫ですよ」

一年ぶりの再会。考えるだけで胸が高鳴った。

「じゃあ六時に駅で」

明日は夏祭り。




待ち合わせ時刻よりも少しだけ早く着いてしまった私は、夏祭りの会場へと向かう色とりどりの浴衣を着た人の波を見て小さくため息をついた。
浴衣は着なかった。私がどれだけ着飾ったところで先輩は私の服装、いや、私になんて興味を示さないことはわかっていたから。

先輩が好意を寄せている相手が私の親友だということは先輩が高校を卒業する前から分かっていたことだった。先輩はよく彼女のことを私に聞いてきていたし、彼女が先輩を好きなことも雰囲気からわかっていた。

それでも、恋人になりたいわけではない、でも誰のものにもなってほしくない。
という私のわがままな片思いは二人の距離を縮めてしまうことを許さなかった。