「"俺、劇の日振りじゃなくてほんとに林檎とキスするから。お前は林檎ともう関わるのをやめたんだから別にいーよな?"って。…なんで俺にわざわざ聞くんだろうって思いながらも、胸のあたりがすごいモヤモヤしてさ」
「うん…」
「思わず勝手にしろよって言い返したら、"意地張るんじゃねーよ。勘違いしてるみたいだけど、俺と林檎は付き合ってない。…でも、お前がそんななら俺が林檎のこと貰うから"って言われて」
塁らしい、少し乱暴な言い方を真似する純也くん。
純也くんの喋り方に合ってなくて、なんだか凄い違和感を覚えた。
「今思えばただ挑発されてただけなんだよね。でもどうしても、塁くんと林檎ちゃんがキス、なんて考えたくなくて…」
「…うん」
「自分の中にある、理解できない気持ちを全部塁くんにぶつけたら、塁くんニヤッと笑って、律儀にメモも入った台本を俺に渡してきたんだ」
「…台本…?」
「そう。この劇のね。"林檎の王子様になってやれよ"って言われたよ」
…あたしの、王子様…。
裏で、塁が手を回してくれたんだ…。
「…最初は、劇なんて誰がやるかって思ってたんだけど。文化祭が近づくにつれて、やっぱり林檎ちゃんと塁くんのキスシーンなんて見たくなくて」
「…」
「…つい、勢い余って俺が奪っちゃった」
ほんとは俺も振りで終わるつもりだったんだけど、と頬をかく純也くん。
そんなことが、あったんだ…。
予想もしなかったことに、あたしは驚きを隠せない。

