放課後になり、いつものように部室に向かう。
中に入ると、もう来ている後輩から「部長、お疲れ様です」と声をかけられる。
「うん、お疲れ様。早いね」
…そう、実はあたし、演劇部の部長になってしまった。
特に目立つわけでもなく、一年のときも二年の時も脇役だけしかやってこなかったあたしが部長だなんて、きっとみんな驚いたはず。
演技だって特別上手いわけでもないし。
この学校のほとんどの部活動は、前部長が次を引き継ぐ人を指名することになってる。
あたしは二年の終わりに、前部長の藍田先輩に呼び出された。
先輩に呼び出されるなんて怖くて仕方なかったけど、逆らうわけにも行かずに藍田先輩のもとに行くと、「部長になってみない?」と言われたのだ。
正直、冗談かと思った。
おちゃめな先輩だったから、最後の最後でドッキリかな?なんてこっそり隠しカメラを探したりもした。
…でも、冗談でもなんでもなく、真剣になってほしいと言われ…。
最初は嫌だった。
あたしより演技が上手い人はたくさんいるし、なんであたしを指名したのかが全くわからない。
それをそのまま、藍田先輩にぶつけてみると、あたしはこう言われたのだ。
『林檎が一番役になりきってるなって思ったからだよ。確かに、林檎より演技が上手い人はたくさんいる。でも、その人たちは役を演じてる“自分”に酔ってるだけで。林檎みたいにその役が物語の中でどんな立場で、どんな心情で一言一言言葉を言ってるのかきちんと考えてる人はほかにはいないと思った。…そんな林檎だから、お願いしたいの』
一番尊敬している先輩にこんなことを言われて、舞い上がらないわけないだろう。
ほんとに嬉しかった。だって、そこまでステージ上のあたしを見ている人がいてくれたから。
嬉しさが頂点まで達したあたしは、少々不安はあったものの部長になると決心したのだ。

