私はサトルをまともに見ることが出来なかった。
「偶然」を必然に作った。
レイは医師もまともに見れなかった。
ただ、分かったこと。
それは、
彼も私を欲しているんだ……。
「俺、ちょっと受付だけして戻ってくるわ〜」
そう言い残しサトルはレイを残したまま立ち去った。
一緒に行こうか?
サトルに言おうとしたが躊躇した。
私の脳は行くなと指示を出しているのだ。
これは偶然なんかじゃないんだ。
私を知っている素振りをした医師。
ここに留まった私。
いざ、こうしてまた2人っきりになると何を話していいか分からなかった。
恥ずかしさに耐えきれずにうつ向いてしまったレイに医師は言った。
「待ってます」
医師はポケットから小さな付せんを取り出し何やらペンで書いたものをレイの手に握らせた。
「あ……はい」
レイはうつ向いたまま答えるのが精一杯だった。
付せんには携帯の番号が書かれていた。
何事もなかったかのように立ち去る医師をレイはそのまま見れずにいた。


