お姉ちゃんの憂鬱


「香奈子、オレが引っ張ってやろうか?」


「ダメです」


「ペットにはきいてねーよ」


「ダメです」


「じゃあオレが引っ張ってあげるよ姉ちゃん」


「ダメ。遥香もダメ」


「な、香奈子」


「ダメです」


「なにそんな無駄な戦い繰り広げてんのあんたたち。別に誰に引っ張られようがひっくり返さない人なら誰だっていいわ」



ひっくり返されたらもうそれは生命の危機だからね。



「オレが香奈子のことひっくり返すとでも思ってんの?」


「いや、メグは実は優しいからそんなことしないだろうよ」


「実はってなんだよ。ま、それならオレでもいいってことだよな」


「そういうことになるね」


「じゃあオレでもいいじゃん」


「そうだね」


「ダメだってばー!」



メグはなんだかんだ優しいし助けてくれるからひっくり返すなんてそんなヒドイことしないだろう。

遥香ももちろんそんなことしない。


むしろ落ちたら助けてくれるよこの二人は。



「メグの髪は濡れると暗くなるのね」


「んーそうかもな。意識したことなかったけど」


「その色も素敵だね。色っぽい」



地毛の金髪は染めたものと違って根元まできれいに金色だ。


「かなちゃん、俺は?!俺も素敵?」


「誠うるさい。かぼちゃプリンになってんぞ」


「かなちゃんのあたりが今まで以上に強い!でも負けない!俺めげない!」


「誠は馬鹿みたいにうるさいなー」


「馬鹿って何だよ遥香!」


「そのままの意味だよ馬鹿」



それに対してこの遥香とやんややんや言い合っている馬鹿みたいなミカン頭は最近染め直していないせいで根元がだんだん黒く浸食してきている。

もうそのまま全部黒く戻っちゃえばいいのに。



「香奈子さんやい。男に色っぽいって言うか?」


「言う言う。ほらあれだよあれ。水も滴るってやつ」


「取り合えず褒められてるんだなってことは伝わった」


「俺も水滴ってるでしょ!」


「かぼちゃプリンはいっぺん底まで沈んで頭冷やしてきなさい」


「滴るどころかずぶ濡れだよ!びしょびしょだよ!」