「まだか、あいつ。あの2年」


屋上には、人はまだ誰もいなかった。




堂前は扉の横にゆっくりと腰を下ろし、コンクリートの壁に、背中をもたれかけた。




空はまだ明るい。


少し湿り気を帯びた風に、もう夏の気配を感じる。





あいつは……来るだろうか。




いや、間違いなくやって来る。


怒りに満ちた顔で飛び込んできて、殴りかかってくるかもしれない。


画像を消したと言ったことなど信じずに、ケータイを取りあげ、ぶっ壊すかもしれない。





――それで合格とするか……。





どんなことをしても藍を守る覚悟。


それさえあれば、あとは目をつむろう。




この試験を、悟がクリアすることを望んでいるのか
クリアできないことを望んでいるのか

堂前は自分でもわからなくなる。




悟が藍にふさわしい男なのか、そうでないのか。



悟を認めたくない気持ちと、

藍の幸せを願う気持ちとが、混在している。




まぁ、あいつを試す権利なんて、僕にはないんやろーけど……。