走り終えた聖くんは,
ニコニコとあたしの前に来た。


「どう?気に入った?」


目の前にいるのが『彼』?

信じられない。

でも、よく考えたらあたしは『彼』を、音楽室の窓からしか見ていない。

だから、顔は知らないわけで…。

つまり、聖くんが『彼』でもおかしくはない。

それに、走り方は間違いなく『彼』で

だから、聖くんの走り方も大好きで──。






「………うん」


悔しいけど、約束だし、走り方は好きだし……。


「よっし!!!」


相当嬉しいのか、聖くんはガッツポーズまでしている。


「…あの…聖くん…」

「『聖くん』!!?」


声をかけると同時に、素早く振り返る聖くん。


「…上原さんが…『聖くん』…って…」

「……嫌でしたか?」

「名前呼ばれるなんて、感激です!!」

「……はぁ」


なんか、すごく……

……変わった人だなぁ。