この学校に吹奏楽部はない。
弱小吹奏楽部だったらしく、数年前に廃部。
だから、あたしが放課後にいくらピアノを弾いても、誰も文句言わない。
どれだけピアノを独占しても、何も言われない。
「……速いなぁ」
君が走っている。
まるで、風のように走る君。
少し独特なその走りは、多分誰にも真似できない。
その走り方が大好きで、いつ見ても
「速いなぁ」
と呟いてしまう。
きっと彼は、
頭がよくて
静かで
でも、陸上が大好き──。
そんな人。
君が頑張ってるなら……。
そう思って、ピアノに向き直る。
鍵盤に指をおいて
あたしは、ピアノで音を奏でた───。


