つまらない授業が終わって、放課後になる。

あたしの足は音楽室へ向かう。




今は4時05分。

6時まで、まだ1時間以上ある。


あたしは、ピアノの鍵盤に指をおいた。



指が鍵盤を押す寸前、


「鈴」


と、誰か入ってきた。

顔を上げて、扉の方を見る。

そこには、あの人が立っていた。




───聖くん。




「…聖くん、部活は?」

「今日は、休みなんだ」


……昨日、「明日から」って言ったくせに。




「弾いてよ」


聖くんは唐突にそんな事を言った。



「鈴のピアノ、聴きたい」


そう言って、聖くんはピアノの近くの席に座った。


あたしのピアノを、聖くんに───?



「……いいよ。」


久しぶりに、誰かの前でピアノを弾きたいって思った。

でも同時にプレッシャーもついてきた。

弱いあたしは予防線をはる。




「途中で止まるかも」


絶対止まる。

分かってて弾くのは、なぜだろう。

ピアノの発表会の時より、緊張する手。


観客は1人なのに──…。


軽く手が震えている。


1つ大きく深呼吸。



そして、あたしはピアノを弾いた。


──聖くんのために。