「うわぁ~ん、お母~さ~ん」

 奥のリビングからは、泣きながら母を呼ぶ十歳程の少女の声が鳴り響いていた。

「どうしたの、もうすぐご飯よ」

 台所からは優しそうな母の娘をなだめる声が。

「怖い夢見たよ~うぇ~ん」

「あらぁ、かわいそうに。よしよし、もう大丈夫よ。はい、じゃお父さんも呼んできて、ご飯ですよ~って」

「はーい」


 母の胸に抱かれたて安心したのか、あっさり泣きやんだ少女は書斎の父親を呼びに二階に走っていった。

「お父ーさーん、ご飯だよー」


 誰もいなくなったリビングのテレビからは、アナウンサーがニュースを読み上げるところだった。

〈〈続いてのニュースです。A地区で発生した、男女合わせて5人の命が奪われた連続殺人事件から、今日でまる二十年が経過しました。当時、精神病院へ通う17歳の女子校生が起こした痛ましい事件。容疑者の元少女はいまだ逃走中〉〉


「お父さーん早くー」

「はいはい、今行くよう。今日は何かなぁ?」

 少女の家では今晩も仲むつまじく、家族で食卓を囲む光景が見られる。

 この当たり前の様に見える、何でもない日常。しかし、地獄の日々を過ごした“少女の母”にとっては、夢にまで見た至福の時だった。


「ではみんなで、頂きまーす」



 -完-