その声に反応し、息子を抱きかかえている医師を睨みつけ少女はカッターナイフを握りしめ向かっていった。

「お前もだぁぁよくも裏切ったなぁ――――」

「よせっ…ぐ、ぐわぁぁぁ――――」

 先程同様、医師の首もナイフでえぐられ、大量の血が噴き出した。

「ウハハハハ捕まってたまるかぁー」

 少女は飛び降り走り去った。

「よ…吉野……」

 薄れいく意識の中で、中条は以前少女と交したある会話を思い出していた。



「ねぇねぇ、中条くんは何かなりたい、将来の夢とかあるの?」

「夢? う~ん…オレは何か人の役に立つ仕事に就きたいかなぁ。吉野は?」

「へへへ、私はね優しいお母さん。うちのお母さんみたいな優しいお母さん」

「そっかぁ、なれるよ。吉野なら、きっと……」



 少女は泣きながら走り続けた。何処へ向かうのか、自分でも分からないまま、ただひたすら走った。
 もはや少女の意思で身体を動かす事は出来なかった。

 朦朧とする意思の中、最後に少女の目に浮かんだのは、優しそうな母の笑顔だった。

「お母さん………」