すると、華音有の今季のGPシリーズ(※1)の映像が流れる。

 しかも、フィギュアスケートの試合中継と同じように、ある場面だけを流して。
 それも、あまり見たくない。だって・・・


「さあ、最初の大技トリプルアクセル・・・。」

 結末を知っている私にとっては、この実況のアナウンサーの声は余計耳障りに感じる。

 スリーターンから、左足のエッジを外側に倒し、前方に重心をのせた同時に、右足を振り上げて、左回りに回転。

 一、二、三、はっ!!

 半回転足りず、何かに引っかかったように転倒。

 何事もなかったようにすぐに起き上ったが、その表情は明らかに痛そうで、悔しそうで、落ち込んでいて、この先演技ができるのだろうかと不安そうで。
 負の言葉でしか表現できない。


「続いて、トリプルサルコウ、これは決めたいが・・・。

 うーん。」

「シングルサルコウですね。」

 もう、これ以上見たくない。

 華音有の苦しんでいる演技を見たくない。

 実況と解説の発言は、そんな私を無視しているように聞こえる。
 もちろん悪気はないが。


 ――――――――

 ※1→国際スケート連盟が指定する六大会(カナダのスケートカナダ、アメリカのスケートアメリカ、フランスのエリックポンパドール杯、ロシア杯、中国杯、日本のNHK杯)、いずれの大会は世界のトップ選手でないと出られない。