銀盤の国のお姫様

 ひょこんと可愛く跳んで、フライングキャメルスピン。

 そこからしゃがんで、右足を左膝裏につけリザーブパンケーキ。

 そして足を替えて、左足を後ろに交差して固定して、高速バックスクラッチ。
 ただでさえスピンの回転が速いのに、さらに速いから目が回る。
 しかも、軸が全くぶれてない。

 大きくゆっくり一回転してから最後の決めポーズ。
 頭の上で手の花を咲かせる。


 余韻まで完全に音が消えた瞬間、氷が割れるくらい大きな拍手が送られる。

 当時の華音有にとって、今まで経験したことのない拍手の大きさ。

 ビックリして、すぐに手を下ろしてしまった。

 リンクから降りようとして一蹴り滑った瞬間、お辞儀してないことに気付いて、慌てて決めポーズした場所へ戻る。

 とはいっても、はっきりと場所が分からないから、少し狼狽える。

 その様子が面白かったらしく、お客さんにどっと笑われた。

 苦笑いを浮かべながら、お辞儀する。

 右へ、左へ、前へ、後ろへ、四方に。

 これで、大丈夫と思って、やっと氷から降りた。


 本人曰く、この後のショーでの出来事はあまり覚えてないと言う。

『あの演技の後覚えてることと言ったら・・・
 陽一さんや、初音さん、世崎先生や、みんなから褒めちぎられたぐらいですね。』

 華音有にとって、もっと重要な出来事がこの後起こったから。