銀盤の国のお姫様

 分散和音が響くと同時に、スピンが回り始める。

 低い音から高い音へ、三連符の竜巻が通り抜ける。

 それとともに、ヘアカッターで八回転ほど回る。

 美しい顔が、傷つかないかひやひやする。
 
 そして、右靴をつかんで、上へ上へ足を伸ばす。

 ゆっくりになったところで、ビールマンスピンで三回転。

 難しい体勢でも速度が落ちず、きれいなスピン。


 また力強いメロディーに戻ったのと同時に、足をそっと下す。

 リズムに合わせて、スピードを上げる。

 そして、Y字スパイラル。
 三秒キープしたら、右手を離して180度開脚したアラベスク。

 目がキラキラ輝いている。

 六秒、いや、十秒、いやもっと保っているかもしれない。

 あまりにも保ちすぎて時間がなくなったため、本当はもう一つやってからだったが、足を下す。

 そばで見てた、当時の華音有のコーチは、


――おいおい。――

 と、肩を下していたが、本人の気持ちはむしろ上がっているように見える。

 たぶんスケートを、いや、生まれて初めてだろう。

 こんな、気持ちになったのは。

 こんな状態になったのは。

 銀盤の国のお姫様になれたのは。