銀盤の国のお姫様

「つるっ、つる、つる、大丈V(大丈夫)。」

 右手でVサインを作り、左手は腰に当ててにこっと笑う。
 ちなみにこのポーズ、この年のシーズンの陽一のフリープログラムの最後のポーズである。

 そんなの関係なく、華音有はつるつる滑るところの体の切れが妙に良くて、苦笑いをこらえきれなかった。

 反応を確かめてから、ポーズを崩して、華音有の右肩を軽く叩き、

「さてと、かおちゃんに任務だ。
 たくさんのお客さんの前で、演技するんだ。
 かおちゃんががんばれば、ここを潰そうとする悪者を倒せるよ。
 やってくれるかな?」

「やります!」

 華音有のやる気に満ちた返事に、陽一は安心して、

「よし、じゃあ、いこうか。」

 華音有は大きくうなずいて、リンクへと向かった。

 陽一は彼女の背中が小さくなっているはずなのに、大きくなっていくように感じたという。


「続きまして、ここ(中津アイスリンク)の、いや、日本の未来のスターをご紹介しましょう。」

 事前に録音した陽一のナレーションが流れる。

 右足のエッジカバーを外し、片足立ちでリンクの上にのって、左足のエッジカバーを外す。

「先程素晴らしいジャンプを見せてくれた、姫路華音有ちゃんです。」

 スポットライトが華音有を照らす。