曲のテンポが少し早くなった。

 それに合わせて、ステップが始まった。

 スケーティングの良さ、技術の高さ、表現力の高さ。
 姫のいいところすべてが融合したステップ。

 曲に合わせて、華麗にバレエジャンプ。

 縦に百八十度開脚した足が、なんとも美しい。

 着地と同時に、周りの景色が雪野原から、お花畑に変わったような感じがする。
 お花畑の中、私一人が姫の演技を見ているように思える。


 ステップの最中、後ろ向きに短い助走から左足のエッジの内側で踏み切ってジャンプ。
 左回りに回って、一二三、右足で着氷。

 よくも三回転サルコウ(略記3S)を跳んだ。六種類のジャンプの中で二番目に簡単といわれてて、基礎点も三回転サルコウだと四.二と低い。
 しかし、私がジャッジだったら、出来栄え点プラス三点のほかに、もっと点をつけたいほど完璧なサルコウ。
 トリプルアクセルの基礎点より高い得点をつけたい。

 今、気付いたが、これで技術点のジャンプとして認められるジャンプ六種類の三回転すべて跳んだ。
 女子では今のところ、六種類の三回転を跳ぶ選手はほとんどいない。

 となると、すごい姫君だ。

 私がいつも取材している選手で、一人、六種類の三回転をできる選手はいる。
 だが、実際の試合の一つのプログラムでやれっと言われたら無理がある。