それにしても、華音有の歩く速さ、速過ぎる。
 早くも息を切らしている。

 エレベーターに乗り込み、一息ついてから、

「かおちゃん、今日の演技感動したよ。

 なんて言うか、なんか、ありがとう。」

 華音有が何か言おうとしてから、黙り込んだ。

 私自身、何でありがとうと言ったか、訳が分からない。

 華音有は一回エレベーターの天井を見上げてから、私の目を見て、

「まあ、今まで実城さんにお世話になったので。感謝の気持ち伝えられて良かったです。」

「お世辞でも嬉しいなあ。」

 チーン〜♪

 今時こんなチャイム音が鳴るエレベーターがあったのか。
 降りる気が失せるような音だ。

「実城さん、降りよう。」

 ぼけっとしてたら、華音有にぐいっと降ろされた。

 あっ、この階は華音有、隆星、世崎親子が泊まっているんだ。

「あっ、ああ。ごめんね。」

 別に大丈夫だよと言っているような雰囲気が漂っている。

 エレベーターから降りて、真っ直ぐ進んだところにあるソファーに座って、一息ついた。

「さてと、今日はお疲れ様。」

「実城さんお疲れ様。」

 私は別に疲れてない。
 彼女なりの思い遣りだろうと思う。