銀盤の国のお姫様

 ぼけっと考え事をしていたら、あっという間に六分間練習が終わった。

 情けない、しっかり華音有の様子を見ていなかった。

 慌てて、彼女の姿を見つけようとしたが、もうすでにリンクからおりていた。
 
 そして、リンクには、彼女の前に滑る選手、一人しかいない。
 それでも、彼女の姿を探す。
 
 彼女の姿を見つけた時には、前の選手の演技が終わった。

 前の選手がリンクから下りると、入れ替わりに華音有がリンクに上がる。
 フェンスを隔て世崎夫妻がいる。夫妻の前に、華音有は立つ。

「ただいまの得点・・・」
 
 全力で聞かないようにしようと、深く深く息を吸う。


 得点が発表された。

 まったく動揺してない。深呼吸したおかげ、まあ、華音有からすれば大した点数ではないのもある。

 目を閉じ、深く息を吸って、吐き、

「いきます、やります、頑張ります。」

 パン~♪

 フェンスを叩く音と同時に目を開けた。

 何か、特殊な能力にでも目覚めたような雰囲気が漂う。
 名前を呼ばれる前のいつもの儀式なのに、何かが違うように感じる。

 フェンスを手で押して、その勢いで滑り始める。