準備体操だからって、手を抜くことなく真剣に取り組んでいる。

 その表情は硬い。 
 今日はいつもより濃いめに化粧しているせいか、視線が怖く感じる。
 緊張もあるからだと思うが。

 世崎夫妻はそんな様子を、少し離れたところでそっと見守っている。


 ストレッチを終え、今度は廊下中を行ったり来たりと、軽く走り出した。

 カメラや、人などに気をつけながら軽く走る。

 その時、華音有が実城の存在に気付いた。

 軽く目を合わせて、少し速度を上げて走り去った。

 彼女がノービスB(※1)で活躍していた頃から、取材していた私への挨拶だ。

 人に対しては少し恥ずかしがり屋の彼女らしい挨拶だ。


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 ※1→大会直前の六月三十日時点で九歳~十歳かつ、日本スケート連盟が認定するテストで一定の級以上を取った選手が出場できる。これは、日本スケート連盟が主催する大会での話。
なお、さらに上の年代の区分があるが、年齢はすべて大会直前の六月三十日時点での年齢でである。