「きりおにいちゃん、もうかえっちゃうの?」


すっかりと辺りは暗くなり、病室から見えるのはネオンの輝く町の明かりと、漆黒の空に浮かぶ黄色い大きな丸い月。

記憶が後退してしまった露を残し、病室を去るのは心苦しかったが家族でもない僕が一緒にいられるわけもなく、
病室を去ろうと立ち上がると露は僕の服の裾を握り締め、今にも泣きそうな震える声で僕を引き止めた。


「……うん」

「つゆ、さみしい……」

「露……」


裾を握り締めたまま、俯き、肩を落とす姿を見てしまうといつまでも残っていたいと思ってしまう。

すっかり僕に心を打ち明けてくれた露は、医師から再び話を聞くために病室を出て行った綺さんと陸さんを見ても今度は泣かず、ずっと僕の手を握り締めていてくれた。

病室に二人でいる間も、ずっと僕の話に耳を傾け、露もまた一生懸命話をしてくれた。

だけど、時間は過ぎていくものでもう面会時間は過ぎてしまっている。