「霧様!?」


私の腕を引っ張った人物の顔は見えなかったけど、私は反射的に霧様の名前を呼んでいた。


だって、霧様はもうここに来ていてもおかしくないし、他の誰かが自分の腕を掴むなんて想像もしなかったから。


でも掴まれた腕をそのまま後ろで縛られ、口に柔らかい布を噛まされるとさすがにそれが霧様ではないことに気付いた。


「んーっ、んん――っ!」

「静かにしろ」

「……っ!!」


カツ、カツ…と、ゆっくり靴を鳴らしながらもう一人、別に人物が私に歩み寄ってくる。


低い男の声と共に暗い細道の中できらりと光るものが目に入った瞬間、私は言葉を失くした。


まさか、ナイフ……?


突きつけられたそれが、体を傷つける事のできるものだと認識すると体が硬直し、それと同時に、震えが止まらなくなった。