「・・・理由を、訊かないのね」


「泣いている女の人に理由を尋ねるほど、無粋じゃないですよ」




私の方を見ることなく、森川君は言った。

私のせいでこんなところに入ることになったのに、溜め息をつくことも嫌そうにすることもなかった。

目の前のテーブルには灰皿もあって。

こういう時にこそ吸いたいと思うはずなのに、彼はそれをしなかった。


それは暗に、『私が煙草に反応して泣いた』ということをわかっているかのようだった。


森川君は立ち上がって安っぽい自販機にお金を入れた。

カコンと扉の開く音がすると、そこにはビールが二缶握られていた。




「無理強いはしないですが、お詫びと思うなら付き合ってくれます?」


「え・・・」


「本当は潰れるまで飲みたかったんですけど、思ったよりも酔えなくて」




明らかに潰れてもおかしくない量のお酒を飲んでいたはずなのに、思ったよりも酔えなかったと彼は言う。

それは私も経験したことがあって。

多分、理由は一緒なのだと思った。


断ることは簡単で、現に彼は『無理強いはしない』と言ってくれている。

けれど、こんなにも迷惑をかけた私に嫌な顔をしなかった彼の誘いを断る、という選択肢はなかった。




「私、そんなに強くないから。付き合うことは出来ないわよ」


「いいですよ。一人で飲む酒は、不味いので」




渡されたビールのプルタブを明け、缶のぶつかる安っぽい音がした。

勢いよく喉に流し込む森川君とちびちびと口を付ける私。


お互いのことをよく知らないということは、とても楽なことだ、と思った。