「でも、よく御堂会長が一か月で帰国させてくれたな?」


「あら、尾上さん知りませんでした?私、意外と仕事出来るんですよ?納得させれば帰国しても良い、とおっしゃったのは叔母様ですもの」


「じゃあ、水鳥嬢の仕事に納得した、と?」


「太鼓判はもらえませんでしたけど。『上出来』までは頂きました」




自信満々に笑うその顔に、今までとは違う自信が見え隠れするようになった。

それは『自分の足で歩いている』という実感でもあり、彼女自身の成長の証なのだろう。


空港から駐車場へと続く道を一緒に歩きながら、これから一緒に仕事が出来ることを心から嬉しく思った。




「さて水鳥嬢」


「・・・あの」




足を止めて俺をじっと見つめる。

仕事用の鞄をぎゅっと握りしめながら、何かを考えるような顔をする。

振り向いてその顔に視線を向けて立ち止まる。


水鳥嬢は少し恥ずかしそうに顔を赤らめて俺を見ていた。




「そろそろ、その『嬢』って取って欲しい・・・です」


「ん?嫌だったのか?」


「・・・そうじゃなくて・・・ちゃんと、名前で呼んで欲しい・・・っていうか・・・」




モゴモゴと言いづらそうに言葉を発するその姿を見て、イイ女になったな、と実感する。

こうして俺にしか見せない顔を少しずつ増やしていけたら、と。




「じゃあ、お前の敬語がなくなったら呼んでやるよ」


「えぇっ!そんなの急には無理で――――――」




最後の『です』が聞こえる前に、一歩近づいて強引に口付ける。

驚いたのかドサリと鞄が落ちる音がして、目を開け視線を合わせたままゆっくりと彼女から離れる。

地面に落ちた鞄を拾い、それを彼女の手に持たせる。

目を丸くして顔を赤らめるその姿は、大人の女とは言い難いかもしれないが、とてもソソられる表情をしていた。




「行くぞ、水鳥」


「えっ!はぃ――――――うん・・・」




手を引き二人一緒に歩き出す。

これから先、どうなるか分からないけれど。

俺達は此処から始まるんだ。