だから私は雨の日が好き。【花の章】






資延家のハジキ者だった父の素性は、徹底的に管理され外部に漏れることはなかった。

高校卒業と同時に日本へ帰ってきた時には、既に『頼 和』(ヨリ カズ)の名前で写真家としての地位を築いており、若干十九歳の天才少年のプライベートは一切不明だった。



資延家は以前にも増して明るさに翳りが見えており、父は祖母のいない家の苦しさをファインダーを覗きこむことで紛らわせていた。

父は人と話すのが苦手だったわけではない。

言葉とは別の方法で人に訴えかけることの方が父にとって大切だったのだ。




「実は母さんとの出逢いは最悪でさ、俺、ドン引きしたんだ」


「えぇ?そんな・・・いくらなんでもお父様が可哀相ですよ?」


「いや、だって本当に酷いんだぜ?」




父と母の出逢いは、父が母の写真を撮ったことだった。

そこら辺に居そうな適当な服を着た父が、初めて撮った幸せそうではない写真の被写体が母だった。



夕方の公園で、彼氏の浮気現場を目撃した女子高生が『お前が遊び』と吐き捨てるように言われて号泣している姿を、泣き止むまでひたすら撮り続けたのだ。

叫び喚き女子高生なりに頑張っている化粧がボロボロになったあと、公園の水道で顔を洗いスッキリした顔になるまで、それこそ数時間もただファインダー越しに母を取り続けていたのだ。



母にとってはただの不審者で、父にとってはただの被写体だ。

これ以上の最悪な出会いが世の中にあってたまるか、と思えるほどの出逢いだったのだ。