だから私は雨の日が好き。【花の章】






祖母は、父が十六歳になる誕生日の前日に亡くなった。

寂しい家の中でいつも父を支え続けてくれた祖母。

叔父と父へ分け隔てのない愛情を注ぎ、家に仕える使用人を家族のように大切にした人。



そんな人を失った父の悲しみは、経験したことのない俺には想像もつかないものであり、耐えがたいものだったのだろう、と。

大人になった今なら、分かる。




「俺、ばーちゃんには会ったことがないから知らないんだけど、菩薩みたいな人だった、って。じーちゃん、今でもばーちゃんに恋してるからなぁ」


「・・・素敵ですね。そんな風に想ってもらえるなんて」




にっこりと笑って水鳥嬢を見つめる。

俺もそんな風に想って、コイツの隣にいることが出来るのだろうか。

いや、きっと出来るんだろう。

そうでなければ、こんな風に手に入れたいなどと想わなかったのだろうから。




父は十六歳になると同時に海外留学を決め、無理を通してイタリアへと渡った。

その場所は、祖母が生まれ育った街であり、いつか家族みんなでゆっくりと過ごしたいと話していた場所だという。

英語に関しては問題がなかったのだがイタリア語は何とか聞き取れる程度だった父にとって、言葉の壁は大きかったという。



そんな場所で出逢ったのが、数百年前から時を止めたような街並みと、芸術。

街並みを歩く家族の日常や観光客の家族で賑わう風景。



聴こえて来る言葉を理解することは出来なくても、幸せそうに笑うその顔を見つめているだけでよかった父は、その瞬間を閉じ込めるためにカメラを持った。