「そういえば、叔母様が『尾上さんによろしく』とのことでした。今度、尾上さんのお父様とも仕事がしたい、と」
「別に親父となんて仕事したくないけどな。御堂会長は今フランス?」
「いいえ、ミラノに行くとのことでした。ミラノの古くからあるジュエリー店で職人さんの仕事を見たいとかで。きっとフィレンツェまで足を延ばして、アンティークも見に行くと思います」
「そのまま親父に会うつもりじゃないだろうな?」
「さぁ・・・、アンティーク装飾で統一された結婚式は一度見てみたいとおっしゃってましたから、わかりませんよ」
クスクスと笑いながら水鳥嬢が隣で笑う。
笑い声だけはいつまで経ってもお嬢様の顔をしてるんだな、とどこか安心した気持ちにもなった。
上品さを失くさないまま、それでもたった一人の女の顔になった、その人。
隣に立つことを許されるのは簡単なことではなかったが、今、横で笑ってくれていることがとても嬉しかった。
水鳥嬢は俺の下に帰ってきた。
それは、柴田財閥と南ホールディングス、ひいては御堂貿易をも巻き込むような面倒事だった。
そんな箱入りのお嬢様とは露知らず。
手を出してしまったのは俺の責任だ。
しかし、手を出したことに何一つ後悔など無く、むしろ何をしてでも手に入れてみせるという闘志を燃やしていたほどだった。
それでも、俺の悪知恵だけではどうすることも出来ず、奥の手を使うことになったが。
それもそれで自分の力だ、と割り切ってその『奥の手』を行使した。

