「失礼致します」
ドアが開き、その入り口に立つ人に目を向ける。
あぁ、そういう言葉の発し方をするのか、と。
少しだけ懐かしさに襲われそうになった自分の気持ちを、入口に立つ人にだけ集中させるように意識した。
「お時間を頂き、光栄に思います。Street.S(ストリート.エス)、代表取締役をしております佐藤と申します」
「同じくStreet.S、企画営業部課長、尾上と申します」
「恐れ入ります。Bijou-brillant(ビジュ・ブリアント)会長の御堂蒼(ミドウアオイ)と申します。そう畏まらずに、お掛けになってください」
名刺交換が儀式だ、と言うのは本当だ。
この瞬間だけでこの人がどんな人なのか分かる。
身に纏うオーラは貫禄以外の何者でもない。
観察力、洞察力、判断力。
一瞬で全てを見抜かれた感覚を持った。
鋭利なナイフを突きつけられたような緊張感。
平常心を保ったフリをするのが精一杯、なんて状態になりそうな気持ちを強く軌道修正する。
それでは駄目だ。
この人の存在感と目線に怖気づくようでは、絶対に駄目だ。
傾いだ心をもう一度落ち着けるために、名刺に目線を落とす。
一礼すると同時に少しだけ大きく息を吸い自分の中を新鮮な空気で満たす。
そうする事で、俺だけの間合いと俺だけの空気が出来上がることを、俺は何度も繰り返してきた。
大丈夫だ。
俺は、こんなところで挫けるような坊ちゃん育ちなんかじゃない。

