「お待たせ致しました。佐藤社長、わざわざご足労頂きありがとうございます」


「とんでもない。うちの社員が無理を言ったんですから、当然です。こちらが今回の発案者の尾上です」


「お初にお目にかかります。企画営業部で課長をしております、尾上と申します。この度はお時間を頂きありがとうございました」




儀式的な名刺交換をし、ソファーにかけて企画案について補足説明を加えていく。

相手にとってのデメリットは企画書に載せてはいないので、その部分を重点的に説明することが企画を相手に理解してもらうための絶対条件だ。

デメリットを隠すのではなく、明確にした上で対応策を考えつく可能性の限りに用意する。

事前準備と想定の繰り返しが必要なとても根気のいる作業ではあるが、俺は今までこの手法で仕事を獲得してきたのだ。



俺の特技は『策を練ること』。

想定される全てのデメリットに対する策を考え、想定される最悪の事態であっても、それを覆すかマイナスにならないカバーをすることが出来る。


物心がついた頃には何故か身についていたこのスキル。

姉の計算高さを目の当たりにした俺が、それを吸収するのは簡単なことだった。

この癖があるせいで、人に本当の顔を見せることが出来なくなったけれど、それ以上に得た物もあったことを俺は知っている。




そんなことを思いながら説明をしていると、あっという間に説明が終わってしまった。

先方の社長は良い顔をしてくれていて。

好感触であることは間違いがなかった。