言葉にしなくても俺の考えていることを理解できるのは、きっと家族以外では彼女だけだろう。
それは、俺がそこまで気を許している証拠であり、自分のプライベートな領域に彼女を入れているという事に他ならなかった。
「広報として一緒に仕事をするようになって。最初はずっと緊張してました。怖くて、でも尊敬してて」
「水鳥嬢はいつも一線引いてたな。分かり易く周囲と距離感あったしな」
「ありましたね。でも、あっという間に壊されましたけど」
「・・・悪かったって。アレは、俺も忘れたいんだよ・・・」
「ふふふっ。駄目です。忘れないで下さい」
生意気になったものだ、と思う。
それと同時に、いい女になったな、とも思う。
忘れたくても忘れられない『お持ち帰り事件』を思い出し、苦い気持ちと淡い気持ちの両方が浮かんだ。
これは、生涯忘れることが出来なくなりそうだ、と。
そんな予感がしていた。
「あの日から、尾上さんは――――」
「ん?どうした?」
「・・・いえ。取引先じゃなくなりましたね」
「おいおい。お互いにな」
軽口をたたいて二人で笑う。
俺の質問の答えを聞き出したいと思うのに、何故かそれは憚られた。
こうして笑う彼女との想い出話は尽きることがなく。
一緒にどれだけの仕事をしてきたのか、気付かされるばかりだった。
初めて二人で飲んだ夜と同じ店、同じ部屋。
不思議な空気が二人を包み込む。
彼女が、コトンと猪口を置く。
その音が。
自棄に部屋に響いた。

