だから私は雨の日が好き。【花の章】






「・・・今の仕事は、楽しいですか?」


「え?・・・えぇ、とても」


「広報をしたかったのなら、広告代理店に入ればよかったのでは?」


「良く言われるんですけど、代理店の仕事をしたかったわけじゃないんですよ」




彼女は仕事の話をしているのに、表情を崩していった。

それは『今の仕事が本当に楽しい』と。

彼女が全身で表現しているの証拠であり、そんなことも出来るのかと目を見張って彼女を見つめていた。




「沢山の人に知ってもらう、と言うのは大切なんですけど。私がしたかったのは『こんなに良い商品なんですよ』ということを知って欲しかったんです」


「それが、広報と代理店の違いだと?」


「大きな違いではないと思います。けれど『自社の商品に自信がある』という違いはあると思います」


「お好きなんですね、今の会社が」


「えぇ。自分の居場所がありますから」




嬉しそうに猪口から酒を流し込む姿を見て、彼女が心から口にしているのが良く分かった。

そして、それは。

とても悲しい返事だと思った。



確かに今の会社のことは好きなのかもしれない。

ただそれは、『純粋な好き』という感情ではないのだろう。

むしろ『気に入っている』という表現の方が正しいのかもしれない。


自分の役割が決まっており、自分を必要としている場所がある。

立ち位置から周囲に与える影響まで。

全てを見越した距離感が必要だ、と。

だからこその立ち振る舞いと距離感を、彼女は仕事の中で崩さない。

自分の『居場所』を守るために。