「広報には、慣れましたか?」


「全く。分からないことだらけで、いつも悪戦苦闘してます」


「そんな風には見えませんね。前任の方からも太鼓判、頂いてたじゃないですか」


「あれは尾上さんを不安にさせないための口実ですわ。こんな若輩者で恐縮ですけれど、精一杯させて頂きますね」




相変わらずの外ヅラぶりに、どうしようもないくらい違和感を感じた。

こんな顔をしなくても仕事は上手く回るだろうに。

いくら女だらけの職場とはいえ、ここまで自分を作り上げることもないだろうに。


何より。

広告会社の営業にまで外ヅラでいる必要性は、どこにあるのだろう。




普通、化粧品メーカーの広報はキリッとした顔で仕事をし。

甘えたように俺達に頼ってきたりするもんだ。

それが女の遣いドコロであり、そういう彼女達を心底尊敬している。



なのに。

何故、コイツは違う?

人に頼ることを知らず、人に媚びることを知らず。

それでいて人を惹き付ける魅力を持っている。



イベント資料と広報資料に目を通している彼女を見つめて、そんなことを考えていた。

不意にこちらを向いたその表情は、あどけなさなど一つもない『大人の女』の顔だった。




「あの、何か?」


「いえ。熱心にご覧になってるので、ご不明点でもあるのかな、と」


「ありませんわ。こんなに丁寧な資料なんですもの」


「それは光栄ですね」


「・・・私はてっきり、何か失礼なことでもしたのかと。少し怖いお顔でしたので」