「長居をして申し訳ありません。混雑している時にお邪魔してしまいして」
「お気になさらないでください。尾上さんが来ると、みんな張り切って仕事をしますから」
「それじゃあ、また来ないと駄目ですね。またお疲れ様会でもしましょう」
「まぁ、嬉しい。楽しみにしてますね」
社交辞令と判りきったような挨拶の中にも、店長が期待を滲ませているのがわかった。
自分で言うのも何だが、それなりにモテる自覚もあって。
女の感情を読むのが何よりも得意だった。
百貨店を出ると明るかったはずの街に夜の気配がしていた。
家に帰る前に彼女の家に寄って行くことを決め、携帯を手に取った。
どうせ家に帰っても引っ越しの準備をするだけだ。
それなら飯にありつきたいと思って彼女に電話をした。
ついでに、そろそろ別れ話もしなくてはいけない、と。
これから『会いたい』と連絡をする彼氏の考えではないことも、同時に想っていた。
いつもそうだ。
会いたい、と。
大切だ、と想えば想うほど。
それと同時に『重荷』になっていく。
こんなはずではなかった、と。
何度想ったことだろう。
仕事よりものめり込めるものがない俺にとって。
彼女は常に『三番目に大切なもの』なのだ。
家族、仕事、女。
その順番が変わることなど、絶対に有り得ないのだろう、と。
どこか虚しい気持ちで携帯のボタンを押した。
受話器の向こうから聞こえた嬉しそうな声が、俺をより空っぽにさせていった。

