「凄いじゃないか、義兄さん。イギリスに転勤なんて」


「ありがとな。でも、何もこんな時でなくてもいいのに」


「姉さんのことは心配しなくていいよ。俺もいるし」


「あぁ。カズがいるから心配はしてないんだけど…」


「折角認められたんだもの。智哉は頑張ってくるべきよ。産まれて落ち着いたら私もすぐ行くから」




夏も終わりかけたと言うのに、陽射しはまだ真夏のように照り付ける日曜日。

俺は姉に呼ばれて、姉夫婦の自宅にお邪魔していた。


話と言うのは義兄さんの転勤の報告と、俺と姉との同居についてだった。

元々近所に住んでいたこともあって普段から頻繁に立ち寄ることは多かった。

その度『うちに住めばいいのに』と姉からは再三言われていた。

義兄さんも同意件で何度か本気でその話をしたこともあった。



三歳年上の実の姉と、一歳しか歳のかわらない義兄。

二人とはとても仲が良い。

特に姉とは恋人に間違われるほど、いつも一緒にいたものだ。

ただ、二十七にもなって家族と同居ということに少なからず抵抗があったのだ。





「まぁでも、義兄さんの転勤で同居することになるとはねぇ」


「カズがもっと早く同居してくれたら、俺も楽しかったのに」


「この歳で独り暮らしじゃないとかないとか、女連れ込めなくて困る」


「ハハッ!カズはモテるからなぁ。これからは外にしてくれよ」





わかってる、と返事をしながら笑っている姉に目を向けた。

旦那がいなくなる寂しさと、俺と同居をする嬉しさ。

入り交じったなんとも言えない表情だが、少しだけ安堵の表情をしているようにも見えた。