だから私は雨の日が好き。【花の章】






私は、何も言うことが出来なかった。

彼は困ったように笑い、そしてこちらを見つめていた。




「最後に抱いた時。貴女を自分のものにしたつもりでいたんだ。俺を見てくれた、と感じたから」


「・・・そう」


「でも、そのまま有耶無耶になりそうで怖かった。自分の気持ちを伝えることが、俺には出来なかったから。だからこの企画を通すことに決めた」


「だから、私からの連絡も断っていたの?」


「いや、違う。曖昧なまま会いたくなかった。会えば貴女は、俺に抱かれてくれるから」




確かに。

あの時は自分の感情なんて考えることもせず、この人の腕に抱かれていた。

愛情なんて一欠片もなかったかもしれない。


あったのは、同情と哀情。

それだけで私達には十分な感情だと想ったから。




「俺のことを見ているようで、本当に俺のことを見ている訳ではないと知ってた。貴女は空っぽだった。ずっと」


「・・・そうかも、しれないわね」


「でも、一度だけ見てくれたんだ。あの日。あんたは俺を見て、俺に向かって『好きだ』と言ってくれた。だからこそ、このままでは駄目だと想えたんだ」




気付いてたんだ。

あの日、櫻井君のことが好きかと聞かれ『好きだ』と答えた。

けれどその言葉は。

櫻井君に向かって放った言葉ではなかった。


あれは、森川君に向かって放った言葉になっていたのだ。