「それにしても、遅いですね」
「確かに。もう時間になってしまうわ」
時刻は、二十三時四十分を指していた。
そろそろ最終調整に入らなくてはいけない時間なのに、プレスルームには誰も戻ってくる気配がなかった。
イベント慣れしていない私は少しそわそわしていた。
山本さんは至って冷静で、確認してみます、と軽く言って電話を掛けた。
と、同時に。
プレスルームのドアが盛大に開いた。
そこにはニヤリと意地悪く笑った櫻井君が立っており、山本さんが呆れたように声を掛けた。
「何してたんです?もう時間ギリギリじゃないですか」
「悪いな。それで、時雨に頼みがあるんだが――――」
「現場資料なら頭に入ってます。進行はお任せしますので、指示をお願いします」
「さすが、話が早い」
「何年一緒に仕事してると思ってるんですか。その顔の時は有無を言わさず『手伝え』って時じゃないですか」
何のことか分からず、二人を交互に見つめる。
櫻井君と目が合うと手を引いて立ち上がるよう促された。
山本さんの目の前で、私の腕を掴むなんて。
信じられない気持ちで手を振り払い、櫻井君を睨みつけた。
「何するのよ」
「まぁ、そう怒るなって」
「貴方、彼女の前で何を――――」
「関係者入口で待ってろ。ビジョンの前は人ごみだ。社長を人ごみの中に放り込むわけにいかないだろう。案内役も一緒に行かせるから、絶対待ってろ」

