山本さんは何も言わない。
けれど、目線を逸らして逃げることもしない。
きっと聞きたくないことであるだろうに、それを受けとめる『覚悟』を。
彼女は持っているのだ、と知る。
それは、とても辛いことだ。
自分にとって苦しいものや嫌なものから逃げるのは人の性なのに。
彼女はそれを受け止める強さを持っている。
その目が、とても櫻井君に似ていると想った。
「でもね。一年経ってこうして貴女と向き合うと、嫌いじゃないって想えてしまうのよ」
「杉本さん・・・」
「貴女が櫻井君を大切にして、櫻井君が幸せそうに笑っているのを見るとね。それだけで、いいような気がするのよ」
「・・・その隣が、私でも、ですか?」
不安そうな声と、揺れる瞳が見える。
こんなことを言っていいのかと想いながらも、あの人の隣を渡すつもりなど無い、という覚悟も見える。
年下のはずなのに。
彼女はきっと今までも、大きな選択をして。
迷って、悩んで、足掻いて、此処まで来たのだろう。
だからこんなにも。
凛として真っ直ぐでいられるのだろう。
「貴女のような人で、良かったわ。こんなことを、言える立場じゃないんでしょうけど」
「いいえ。杉本さんが支えてくれたからこそ、今の櫻井さんがあることを。私は良く知っています」
「綺麗ごとだわ。過去に嫉妬しないとでも?」
「しますよ。私、見た目より大人じゃないので、嫉妬もすれば八つ当たりだってしますよ」
「じゃあ、私の存在は疎ましいでしょう?」
「そうですね。正直、気持ちの良いものじゃないですね。でも、それも圭都の一部だと想えるので、杉本さんを恨む道理はないですよ」

