関係者入口で声を掛けると、慌てたようにスタッフがバタバタとしていた。

それもそのはずだ。

まさか広告代理店の社長が現場に来るなど、想定もしていなかっただろうから。


そんな中、落ち着いた雰囲気を纏い柔らかい笑顔を浮かべた人が、颯爽と社長の前に現れた。

会社で見る彼とは全く違う人のような雰囲気を持っている。

落ち着いた雰囲気は年齢よりも年上に見えるのに、爽やかさを無くさない印象で。

何よりその優しい笑顔は反則だと想った。


直視してしまえば目を離せなくなってしまいそうだったので、目を逸らす。

社長の上着を預かりながら、社長の一歩後ろに控えていた。




「お疲れ様です。わざわざご足労頂き、ありがとうございます」


「いや。こちらこそお招きありがとう、森川君。昔に戻ったようで楽しみにしていたよ」


「それは、光栄です。杉本さんも、わざわざありがとうございます」


「とんでもありません。年末までお疲れ様です」




簡単な挨拶を交わし、早速副社長のところへと案内をされた。

販売ブースの見学や商品名だけは教えてくれたけれど。

どんなものなのかは教えてくれなかった。

ただ一言『御社の仕事は、本当に素晴らしい』とだけ。


大型ビジョンに映すCMを待つしかないらしく、私は愛想笑いを浮かべながら副社長と話を続けていた。




「お疲れ様です。ご無沙汰してます、副社長」


「やあ、櫻井君じゃないか」




声のした方に目を向けると、櫻井君と山本さんが立っていた。

明らかに私服でフラッと寄りましたという感じなのに、二人とも現場に挨拶に来るのを想定していたようで。

二人で並んでいる姿はとても均衡の取れた姿だった。