「失礼します」


ぺこりと頭を下げて
すでに力が緩んでいた腕を押しやり、会議室の扉を開けた。


上沢さんが呼び止めることはなく
あたし一人、みんなのいるフロアへと戻っていく。



マズイ……。
今あたし……。



ドクンドクンと心臓が鳴り響いていて
周りにバレないように席へつく。



「あれ?豊田さん、眼鏡どうしたの?」

「あ……」


言われて気が付いた。

眼鏡をかけてない自分。
そういえば、上沢さんに奪われてたんだっけ……。


度の入っていない眼鏡は、はっきり言ってかけてなくても変わらなくて、
もう一度上沢さんのもとへ行くくらいなら、今日は眼鏡なしでやり過ごそう。

そう思った。